2012年1月13日金曜日

Mr. Barocas and the Me'am Lo'ez

Kaplan, Rabbi Aryeh, 1980. 'Mr. Barocas and the Me'am Lo'ez' in Studies in Sephardic Culture: The David N. Barocas Memorial Volume, New York: Sepher Harmon Press, pp. 15-19.


メアム・ロエズMe'am Lo'ez全編の英訳という偉業を成し遂げた、Aryeh Kaplanによる、David N. Barocasの回想文です。 Barocas氏についてはhttp://www.sephardicstudies.org/David-Barocas.htmlをご参照下さい。

この論文で個人的に一番重要だと思うのは、メアム・ロエズを著した、ラビ・ヤアコヴ・フーリーの呼び名です。Encyclopedia JudaicaやJewish Encyclopediaのエントリーでもそうですが、スペリングにかなりの揺れがあります。そもそもユダヤ・スペイン語、ラディーノの転写法が確定していないという事情もあるのですが、たとえ転写法が確定していても、この人の名は表記と呼称伝統にズレを見せるのです。

そもそもヘブライ文字ではכוליと記すので、音節初めのカフは弱ダゲシュがつき破裂音の/k/になるのですが、セファラディーの伝統ではダゲシュがつかない摩擦音で発音し続けているとのことです(p. 16)。そのことに関して本論文ではBarocasから著者に宛てられた手紙を引用します。

1977年6月10日
私は誰がフーリー(H.ulí)という名前をクーリー(Culi)に変えたのか知りません。彼の名を「クーリー(Culi)」と呼んでいるのを聞いた覚えがありません。[証拠として]Palestine Kosher Oriental Knishesの「Albert Houli」さんの名刺を添付します。(p. 17)
1977年1月22日
フーリーの表記について、Jewish Encyclopedia、Encyclopedia Judaicaの双方でどうやって綴られているかを知りました。二つとも私の蔵書にあります。私は、セファラディーでない者が彼らの文化ではないものを勝手に変えることを当然と思うことに我慢がなりません。スペイン語を知っているものであれば、この発音が嫌悪感をもよおすものであることが分かるはずです。(p. 17)

また、barocasはMagrisoのレビ記メアム・ロエズ付Avotの訳をしているのですが、その中でマイモニデスの翻訳論に触れ、その上でMagrisoの文章に含まれる言語状況を説明しています。

1978年7月30日
マイモニデス曰く。「一つ確実なことを述べさせてもらいたい。翻訳をしたいと望み、全ての語を逐語的に訳し、同時に原文の構文の順序に忠実足らんと望む全ての者は大変な困難に直面するであろう。これは正しいやり方ではない。翻訳者はまず主題のことを完全に理解し、その上でそのテーマに関して、他の言語で明瞭に述べるべきである。しかしながらこのことは、彼の目標言語において意味をなし得るために、[起点言語の]構文の順序を変え、[原文の]一つの語に対し複数の語をあてる、あるいはその逆をすることなしには果たし得ない。」
カイロの賢者[マイモニデス]は完全に正しい。しかしながら、彼は[同時に]5種類の言語を著作に用いたMagrisoを見る機会はなかった。[即ち]スペイン語、ラディーノ、ヘブライ語、トルコ語、そしてユダヤ・スペイン語方言である。(p. 16)
どうもMagrisoの翻訳はかなり苦労するようで、本論文著者のKaplanもその苦労を述べています。
まず18世紀ユダヤスペイン語の辞書が存在しないこと。その状況の中で最大限に出来ることと言えば古風な言い回し・単語について語源学的に考察するしかない、と。メアム・ロエズの翻訳が難しいのは古風なトルコ語単語を多用し、「半ダース程の地中海言語」(p. 18)を使用している点だと述べます。

そのような中で救いなのは、西方セファラディーコミュニティ、Livornoの版だと述べます。彼らは通常あんまりトルコ語由来の単語が分からないので、出版社が再版する際にそれらを注意深くカスティーリャ語や新語に置き換えている(ちゃんと意味は把握していた)とのこと。それ故にこのLivornoの版は18世紀コンスタンティノープル版の諸メアム・ロエズを「解読(decipher)」する際の「ロゼッタ・ストーン」となりうるとのことです(p. 19)。

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