2011年10月25日火曜日

聖書男

最近売れてるらしいこの本、面白そうだったので買ってみて読んでみました。

聖書男(バイブルマン)  現代NYで 「聖書の教え」を忠実に守ってみた1年間日記
聖書男(バイブルマン)  現代NYで 「聖書の教え」を忠実に守ってみた1年間日記A.J.ジェイコブズ 阪田由美子

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著者は「信仰心のかけらもない」「一応ユダヤ教徒」。
前作、

驚異の百科事典男 世界一頭のいい人間になる!
驚異の百科事典男 世界一頭のいい人間になる!A・J・ジェイコブズ 黒原 敏行

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では、『ブリタニカ百科事典』を最初から最後まで読破したとのこと(未読、注文しました)ですが、今回は一年間「現代NYで『聖書の教え』を忠実に守ってみた」らどうなるだろう、という企画。YouTubeやニコニコ動画などでよく「やってみた」系がありますが、それの聖書版と言えましょうか。

著者は「ヴィルナのガオン」の子孫ですが、ほぼ完全に世俗のユダヤ人で、家族内や親族に信仰心に熱くハラハー(平たくいえばユダヤ教の「律法」、「決まり」、あるいは「(歩むべき)道」)を守る人も多少はいるようですが、「わが家でいちばんユダヤ的なものといえば、クリスマスツリーのてっぺんに飾られたダビデの星ぐらい」(22項)という、雑誌「エスクァイア」のライター。
600ページ超ありますが、翻訳の良さ(訳文の流麗さもさることながら、よく勉強しておられます)もあってスラスラと読んでしまいます。

この本のタイトルの「聖書」は、アメリカで勢いを増している福音派のことも鑑みて、ヘブライ語聖書、つまり旧約聖書のみではなく、新約両方を含んでいます。
著者はユダヤ人ですが、ユダヤ教、つまり口伝律法と歴代ラビの解釈を含めた宗教体系のラビの助言は受けつつ、また伝統的な祭りなどに参加しつつも、あくまで本人が聖書の字句(複数の英訳聖書)に向き合い、素直な字義通りの読み(literalism)を行い実践していこう、というのがこの本のコンセプトです。細かい律法や、ラビ・ユダヤ教ではあまり重要視されない、あるいは現実にはほとんど行われていない律法も行っていこうという姿勢。
面白そう。
モーガン・スパーロックの「30デイズ」(あるいはスーパーサイズ・ミー)を彷彿とさせるようなアメリカ的な企画です。

ヒゲを剃るのを辞め、白いローブを身につけ、生理中の妻には手を触れず、また彼女の座った椅子にも座らず(自分用の折りたたみ椅子を買い解決)、混紡の服の着用を避け(5日目にしてチェックしてもらう)、子どもに鞭(とどうにか認められるもの)打ち、毎月慣れない角笛を吹き、姦淫の罪人に「石打の刑」を執行し、十弦の琴を奏で、コシェルの虫(コオロギ)を食べ、赤毛の牛を捜し求め、奴隷を手に入れ…と、現代においてはなかなか困難な規定にも果敢に挑戦する著者。勢い工夫を凝らしたり失敗したりと、真面目だけどユーモラスな展開が多く見られますが、著者の霊的道程をともに辿っていく中で、色々考えさせられることも多かったです。宗教の研究は「知らないものをよく知ってるものに、よく知ってるものを知らないものに」することだ、と本書に出てきますが、言い得て妙ですね。

感心するのは、聖書という厄介な書物と付き合う上で、実に様々な聖書に基礎を置く団体を訪ね、教えを受けていること。そのせいで、この本は現代アメリカのユダヤ教・キリスト教のルポにもなっています。
例えば著者は、モルモン教や(イスラエルの)サマリア教徒、レッドレタークリスチャンや福音派系メガチャーチ、また字義解釈派の福音派の中でも穏健派や根本主義派や「蛇使い(というよりは蛇掴みのほうが正確でしょうか)」まで広く訪ね、実に色々な宗教指導者と話しています。またキリスト教だけでなく、ユダヤ教超正統派とスィムハットトーラー(スコット・仮庵の祭の後の律法歓喜祭)に参加しともに踊り狂い、ヨムキプール(大贖罪日)には動物犠牲を実行するため、カパロート(犠牲のニワトリを頭上で三回回して屠る)を行い、また疑問があれば「宗教顧問」に逐次相談しています。
実践以前は完全な不可知論者の著者でしたが、最終的に彼がどのようになるのか、邦訳が発売されて二ヶ月経ってない現状で言及するのは少し野暮でしょうか。

「聖☆おにいさん」でキリスト教に興味が湧いた、という日本人なんかが読んでみると面白いかも知れません。ユルユルのイエスとはまた違うユダヤ教・キリスト教の顔が見えてくるかと思います。

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