2011年12月17日土曜日

Paloma Díaz-Mas, Sephardim

風邪は大体ましになりました。
まだ頭痛がしたりと本調子ではないですが、イスラエルでは特に(キリスト教暦の)年末年始の長期休み等は、ハヌカーという祭りを除いてないので頑張っていきたいと思います。

Sephardim: The Jews from SpainSephardim: The Jews from Spain
Paloma Diaz-Mas George K. Zuckre

Univ of Chicago Pr (Tx) 1993-02
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この本は題名が題名だからか、セファラディー(1492年にスペインを追放されたユダヤ人の子孫)関係の「入門書」としてよく勧められます。著者はスペイン人で、上に紹介しているのは英訳版ですが、参考文献にスペイン語文献・論文が多いので、スペイン語資料・スペイン語圏での研究の参考になるという特徴があります。
章立ては以下の通り。

1. Historical Background
  Jews in the Iberian Peninsula
  Sephardic Judaism

2. History of the Sephardim
  Exile to Christian Countries
  Sephardim in the East
  Sephardim in Morocco
  The Second Diaspora

3. Language
  Jewish Languages and the Speech of Spanish Jews in the Middle Ages
  Exile
  The Names of the Language
  Ladino
  Judeo-Spanish: A Fossilized Language?
  Haketia: Moroccan Judeo-Spanish
  Language Registers
  Current Status
  The Writing System

4. Literature
  The Bible and Religious Literature
  The Coplas
  Traditional Genres
  Adopted Genres

5. Sephardim and Spain
  Spain's Reaction to the Sephardim
  Sephardic Reaction to Spain

6. The Sephardim today
  Current Worldwide Status
  Sephardim in Spain
  Sephardic Studies

200ページ強の本ですが、結構ボリュームがあり、通読するのに結構時間がかかってしまいました。
「入門書」としてバランスが取れているのかどうか判断しかねますが、個人的な関心が言語・文学で、本書はちょうどその部分にページをかなり割いてくれているので良かったです。逆に歴史は手薄です。また、本書はあくまでも1492年の追放後のセファルディーを対象としているため、中世スペイン史についてはサラっと触れられているだけですので、その方面のことを知りたい方は別の書籍にあたって下さい。

特に文学で「Copla」という、私の理解ではヘブライ文学におけるピユートに少し似たジャンルがあるのですが、著者がこの分野の専門らしく詳述されていて興味深く読みました。Coplaは大体18世紀に入ったあたりから登場し始め、19世紀には盛況を極める、つまりユダヤ・スペイン語文学の最盛期と軌を一にするもので、20世紀初頭まで続くもので、内容は多岐に亘ります。聖書・ユダヤ教を題材として、一般大衆の教化を目的としたものもあれば、倫理徳目の涵養を歌ったものあり、オスマン帝国が近代との邂逅を果たした後は近代批判、あるいは歴史を扱ったもの、聖者伝(ラビや殉教者)を詠んだもの、シオニズム勃興後はアリヤー(イスラエルの地への「帰還」)を賞賛するものもあり、変わり種としては「料理のレシピ」まであるとのこと。また、セファラディー文学の正統から少し離れたところ、つまりシャブタイ派やその後のドンメ(シャブタイ・ツヴィへの追随者としてムスリム(マ)に改宗したユダヤ人及びその子孫)が書いたCoplaもあるそうです。

セファラディー文学で一番有名なのは、Ramón Menéndez Pidalの収集に代表されるロマンスでしょう(マドリッドのArchivo Menédes pidalにあるとか)。私自身も例に漏れず、セファラディーに一番はじめに興味を持ったきっかけはRomanceroでした。そのRomanceroですが、シャブタイ派及びドンメのものはまたそれぞれ存在するとのこと(同一のものとして扱うべきなのか否かはまだよくわかりません)。話はずれますが、この前エルサレムの古本屋で偶然お会いした研究者によれば、「シャブタイ派のロマンス及びそのメロディーは恐ろしいくらいに美しい」。これは気になります。

その他にもセファラディーによる彼らの言語意識の証言や、19世紀後半によるスペインのセファラディー「発見」及びその後に続くAngel Pulidoの"Los Israelitas Españolas y el Idioma Castellano"及び"Españoles sin Patria y La Raza Sefardí"の出版(1904, 1905)とその反応、フランコ政権時代の対ユダヤ人政策、等非常に興味深い・魅力的なテーマを紹介してくれておりますが、また復習がてらまとめたいと思います。

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