2011年12月18日日曜日

ウルパンとは何か

日本語でウルパンのことについて書かれたページはそこそこありますが、私も色々思いつくままに書いてみようと思います。なお、このエントリーは学問的なものではなく単なる個人的体験記のまとめのようなものですのでご了承下さい。



まずそもそもウルパンとは、ヘブライ語学校のことです。
基本的にはイスラエルにアリヤー(帰還)したユダヤ人を念頭に置いているようですが、今はまあ別にユダヤ人であろうがなかろうが、授業料さえ納めれば基本的に誰でも入れます。「急に興味が湧いたため、趣味で少しヘブライ語をば」とかでも問題ありません(私のケースです)。

大体街ウルパン、大学ウルパン、キブツウルパン等に大別(そういう公式のカテゴリーがあるわけではない)され、多少はウルパンの性格や受講者の傾向、目的が変わるようです。私は全部行ったことはありませんが、どうも話を聞く限りそのようです。
語学「学校」ですので、想像できるように公立・私立に分かれます。私立は独自に色々していますが、公立と違って補助金が出ないため、値段が高くなる傾向があります。

レベルは共通してアレフ、ベート、ギメル、ダレット、ヘー、ヴァヴと、ヘブライ語アレフベート(アルファベット)の順に6段階まであります(公式にはヴァヴで終わり)が、必ずしも学校間で完全に同じレベルではない場合があるらしく、やっぱりレベルの上下や重点の置きどころの違いがあるようです。勿論最終的には自分が頑張って実力をつければ問題ないですが。

私が今までに参加したことがあるのは、ヘブライ大学 アレフ、ダレット、ヘー(以上夏の二ヶ月集中コース)、ヴァヴ(セメスター、現在進行形)、街ウルパンの一週間集中コースです。他のは他の人が参加したのを参考に聞いたくらいです。
街ウルパンの一週間集中コースは置いておいて、ヘブライ大でのウルパンの様子をメモがてら書いていこうと思います。


・期間、時間

通常、夏の集中コースだと二ヶ月(今年は一ヶ月+一ヶ月という換算方法)、セメスターだと1セメスター(三ヶ月ほど)で1レベルが終わります。順調にいけば。
時間は夏の集中コースだと、年によりけりですが、一日210分〜255分(75・60・75、 90・75・90)を週に5日、つまり平日毎日(日曜〜木曜)勉強します。この一日あたりの時間は実体験なのですが、アレフ、ダレット、ヘーと上がるにつれて、偶然なのですが毎回一日あたり時間数が増えて、最終的にヘーでは死ぬかと思いました。週末が来る前に終末が来るのではと錯覚したことは一度や二度ではありません。
なお、イスラエルではハイファを除いて金曜の夕方から安息日に入ると公共交通機関が止まるので、観光的なことは頑張らない限り出来ません。下手すると空港と嘆きの壁と大学しか知らない、ということにもなりかねませんので注意。

セメスターウルパンは、レベルによるんですがガクッと授業時間が減ります。夏しか知らない身としては驚愕です。ヴァヴは一番少なくて、週二日、90分x4(2コマずつ)。夏の255分x5日を経験した身としては、あんまり勉強してる気になりません。


・教授法

基本的にすべて直接法(ヘブライ語でヘブライ語を教える)です。が、とはいってもアレフ、ベートの教科書(共通)では単語の説明等は英語です。効率を考えて高校程度の単語力はさすがに欲しいところ。
あと、下のレベルであればあるほどペアワークが多いです。このペアワークが人によっては苦痛なので、ペアワークになると何処へか消える人もいます。


・人数

ケースバイケースですが、他の語学学校と同様、下のレベルほど多いです。ヘブライ語の特徴として、特に大学の夏集中コースの場合、アメリカ系ユダヤ人が夏休みだしお勉強がてらチョロッと行ってみようか、て感じの参加者が非常に多いです。教室の人数はこれもケースバイケースですが、多くて20人超。多いです。
ハイファ大とかだと人数制限をもっと厳しくしている(1クラス12人までとか)みたいなので面倒見はそちらの方がいいかも知れません。


・場所

ヘブライ大で受ける場合は当たり前ですがエルサレムのヘブライ大、外国人別科棟で受ける場合と本科の教室で受ける場合の2パターンを経験しました。
どちらにせよ、部屋が狭いとか広いとか以前に机と椅子が使いにくい。なんであんな使いにくいんだ?あと、アジア人には冷房がキツ過ぎるのが普通。要羽織りです。


・参加者

様々です。
ヘブライ大学で言えば、パレスチナではなくイスラエルの大学(つまりヘブライ語が必要)の進学を考えてるアラブ人、上述した若いアメリカ系ユダヤ人(アメリカ在住)、カトリックの神父、聖書学やユダヤ学選考のドイツ人(プロテスタント)、イスラエルに移民した新移民(既に数年在住)、プロテスタント韓国人(全レベルを通して多い)、クリスチャン日本人、インド人のシスター(マラヤーラム、マラーティー、ヒンディー、ベンガル語を操る)、交換留学で来ている中国人・フィンランド人、日本人、外交関係者、教授、物好き(日本人に多い)、パレスチナ研究者、NGO / NPOスタッフ等々、ズラズラとリストが続きます。
喧嘩はあんまりしません。


・寝床

通常は、最近まとめて建てた、大学から徒歩10分ほどの新しい学生寮に入ることが多いですが(普通に申し込むとそこに入れられる)、私はその学生寮にいると生気を吸われる体質になってしまったので、実際にはそこで暮らしたことはありません。通常は5人用フラットで、個室です。埋まらなくて二人だけになったりすることもあるようです。セメスター中にメンバーが入れ替わることも多々あるようです。
私の場合は、アレフ、ダレットの時は、今思えば滅茶苦茶ですが、東エルサレム・旧市街近くの安宿に泊まってそこからバスで通ってました。今は家を借りてます。


・値段

移民でない限り、特に補助や学割といったものは効きません。あってもいいと思うんですが。
これもケースバイケースですが、ヘブライ大学の場合夏の2ヶ月間集中コースは、2012年度夏の集中は2200US$とのこと。ここ数年、おそらく毎年値上げしてます。
学生寮は同じく2012年度は2ヶ月で1120US$とのこと。
http://overseas.huji.ac.il/hebfees


・教育方針

街ウルパンの場合、基本コンセプトが「イスラエルで暮らす」「イスラエル市民になる」、大学では加えてアカデミックなものが加わります。そもそもが新移民にヘブライ語とイスラエルに関することを叩き込むためのもののようですので、全レベルを通じて文法重視というよりはコミュニカティブアプローチ、単語重視です。とにかく喋る、単語を繋げる、というのが初級レベルの特徴。文法事項の学習はするにはしますが、日本でのように文法重視という感じではありません。なお、動詞変化や構文は、復習も兼ねてか同じようなことを毎レベルやったりします。


・宿題

夏は山のように出ます。
特に今年の夏のヘーは酷かったです(褒めてます)。普通に毎日4,5時間かかってました。
先生にもよると思いますが、セメスターは思ったより出ません。
街は分かりませんが、大学ウルパンに関しては「プロイェクト」というでかい宿題みたいなのが最後に出ます。ダレットに参加した年がプロイェクトのみならず、追加テキストや特別講義もキブツ関係ばっかりでうんざりした記憶があります。


・評価

出席、課題提出、小テスト、中間テスト、選択授業、プロイェクト、期末テストによって査定。なお惜しくもギリギリ基準点に達しなかった場合でも、追試を受けたりすることができるようです。基本的には頑張って通してやろうという心積もりらしく、「基本的にウルパンの先生と採点者はシャマイ派というよりはヒレル派なんだ」と言っているのを聞いたことがあります。


・教科書

アレフ、ベートは共通の一冊本で、それより上のレベルはその時々によって違いますが、普通は二冊以上、リーディング用と文法(動詞・構文に分かれることが多い)用になります。
教科書の内容としては「立派なイスラエル市民になるため」の内容が盛り沢山で、多分ヘブライ語の特徴だと思うんですが、要求される言語外知識がかなり多いです。たとえばアレフの半ば辺りで既にマイモニデス(中世の思想・哲学・医者)がどうしたとか、メアシェアリーム(エルサレムのユダヤ教超正統派地区)がどうしたとかが出てきますし、期末試験のリーディングの内容は死海文書でした。英語に例えると、中一の二学期中間試験で『カンタベリ物語』がお題として(当然リライトされて)出るようなもんでしょうか…。ベートではミドラシュとかヤヌス・コルチャックやアレフベートの起源等が出てきてた気がします。内容は、個人的には工夫されててどれも面白いと思います。
ヘーの教科書では「諸国民の中の義人」、杉原千畝(正確には奥さんのインタビュー)なんかも出てきました。


・言語外知識

の要求レベルが高いと上に書きましたが、最低限基礎的なイスラエル史、ユダヤ教、ユダヤ教の祭り・習慣、聖書、キブツ、シオニズム、イスラーム、地理、国際政治、19〜20世紀ヨーロッパ史等の知識がゼロだと、テキストを読んだ時、初見では「???」となることが多いかも知れません。勿論全部を全部カバーできるはずはありませんが、テキストは「立派なイスラエル市民としての教養」を要求してきます。
個人的な経験として、ヘーのテキストで、「これだーれだ?」という問題で当てられたのが、なんとか派(忘れた)のハシディズム(18世紀以来の東欧発のユダヤ教敬虔主義運動)のレッべ(指導者)で、さっぱり分からなかった思い出があります。クラスの半分以上は分かってたみたいですが。その前のミッキーマウスを当ててくれたら良かったのに。
また、アレフで親族名称を学習する課で、普通に族長を使って教えてくるため、当時聖書も読んだことがなかった身としては大変でした。「イサクから見てアブラハムはなんでしょう?」「(皆で)おとうさーん」とか、「じゃあヤコブから見てアブラハムは?」「(再び皆で)まごー」とかこんな具合に創世記の知識を前提に授業を進めてたので大変でした。


・選択授業

他のとこはどうか知りませんが、ギメルより上のレベルだと、夏のヘブライ大では(今年からセメスターも)アカデミックな内容の「選択授業」をどれか一つ取ります。個人的にはこれ大好きです。ダレットで取ったのは「19世紀エルサレム史」、ヘーは「ヘブライ語史」、ヴァヴは「聖書学の論文を読む」です。他にも「イスラエル社会心理学」「新聞を読む」「聖書の登場人物たち」「ユダヤ教入門」「イスラエル歌謡入門」等がありましたが、一つしか選べません。
ある程度レベルが上なので、レアリア(生素材)がガンガン出てきたりします。選択授業も通常の授業と同じように小テストがあったり、期末試験に相当するでかい宿題が出たりします。私の時は夏は週2コマ、セメスターは週1コマでした。ダレット、ヘー、ヴァヴで取ったこれらの授業はどれも凄く面白かったので、いずれ紹介できればと思っています。

選択授業とは少し違いますが、それとは別に通常の授業の時間を使って映画を観たり、ホールに移動して皆で歌を歌ったりします。概して日本人(やドイツ人)にはこの歌の授業が不評のようですが、私は大好きです。この歌の授業のおかげで音楽の趣味が広がりました。




以上、ダラダラと長く書きましたが、ウルパン、イスラエルのヘブライ語教授のレベルは、他の言語教授と比較して、非常に洗練されてレベルが高いと思っております。正直「ハズレ」の先生や教材に当たったことがありません(残念ながら他の言語では何度も当たりました)。先生も慣れてますし、進め方もうまく、なによりやる気が続きます(私の場合)。大局的に見てモチベーションの上下やきついと思うことはあるものの、今までヘブライ語を一度も嫌いと思ったことがなく、趣味で始めて「楽しいから」という理由でここまでこれたのは、ウルパン自体の質が全体的に高かったためだと思ってます。

1 件のコメント:

  1. こんにちは。愛知県在住のポピーと言います。ヘブライ語の習得のために色々検索していてこちらのブログにたどり着きました。ウルパンについて、体験からの紹介をありがとうございます。とても参考になります。ブログの更新はストップされておられるようですが、まだイスラエルにお住まいでしょうか。私もぜひ行ってみたいと思っています(^-^)

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